研修医の皆さん

どの大学病院でもそうなのかどうかわからないけれど、今回入院した病院について思ったことは、
「私ってば、教材なのね〜」
というコトだった。
でも別にそれがイヤってわけではない。そういう場がなければ、世の中にお医者さんが増えてくれないんだし、医学生さんが勉強するためという理由も含めてココには先端医療機器や技術情報が集まっていて、だからこそ私はそこに転院して入院した訳でもあるのだから。
でも、やっぱり痛いのはイヤだし、効率悪いのもなるべく勘弁して欲しいので、時にはちょこちょこ悪あがきもさせていただきました。
特に、点滴の注射。
この病院では24時間点滴については3日ごとに針を取り替えている。その都度またブスっと新しい点滴針を射されるのだけれど、この射され具合の良し悪しでその後の痛みや違和感が違ってくるのだ。
ヘタな人にやられると、時々血管から針が外れるか何かの理由で薬液が血管以外の場所(皮下のどこか)へ漏れてしまうのだ。漏れているかどうかを患者が認識するのはちょっと難しいけれど、針を刺した部分の周囲が痛かったりしびれる感じになるとか、点滴の落ち具合が遅いとかで予感することはできる。
また、針を刺してもらった場所が悪いと、神経か筋肉を刺激してしまうのか、常に痛かったりすることもある。
「そういう時は言っていただければ射し直しますよ〜」
と看護士さんは言ってくださるけれど、それを申告するタイミングを私はいつも図っていた。
他の患者さんがその日どの研修医さんに射されたかをチェックしたり、研修医さんの出勤状況をチェックしたりなどして、なるべく上手な先生が来てくれそうな頃合いを待ったりした。
しかし、それでも巡り合わせの悪い時はそこそこあった。
一番評判の悪かったA先生には2回当たった。
この先生は研修で産科に来てまだ間がなく、初めて私の同室の患者さんにした注射の出来がとても悪かった。
4回射し直して、しかも一度針を射した後、射した状態のまま針を動かして更に血管を探るということを何度もやったらしい。
そのせいで患者さんの腕には青アザが5cmくらいの大きさでこしらえられてしまい、その痕はなかなか消えなかった。
射し直しはまだしも、射してから血管を探されるのは勘弁して欲しかったので避けていたのだけれど、ある夜遅い時間に点滴してもらうことになった際、夜勤だったA先生に当たってしまった。
とはいえ私がその先生に初めて射されることになった頃には、既にA先生は陰に陽に点滴注射のヘタさ加減を看護士さんや患者さんに散々言われて凹んでいるトコロだったようで、私の血管を見て、
「うーん、難しそうですね〜」
と言いつつ、謙虚な姿勢で一生懸命良さげな注射ポイントを探していた。なので、私の方から
「以前はこっちの腕の血管でココとココにされたことがあります。射された箇所の上の血管が硬くなってボコっとなってますよね?だから、その間にやりやすい血管のラインがあるんじゃないかと・・・」
この”ココとココ”とは、左腕の下腕の上の方と、手首の方のコトだった。2つの注射痕は離れていたので、この間ならいいかな〜?と思って自己申告したら、
「ああ、なるほど、じゃあ、このあたりでやってみますね」
と素直に誘導されてくれた。
おかげで案外普通に点滴を射してもらうことができた。イエイ♪
A先生、今は評判が悪くてもいつか報われる日が来ますよきっと。
ちなみに以前私の手首に点滴注射を打ったB先生は、私にとってはA先生よりも印象が悪かった。
B先生は1回目に普通に腕の関節に近い方で点滴針を射そうとして失敗してしまい、
「すみません、うまくいかなかったのでこっちでやりますね〜」
とアッサリ針を打つ位置を手首へ変更してしまったのだ。まあ、手首なら皮も肉も少ないから血管を見つけ易いよね。
私自身はちょっとやそっとの痛みには動じない自信があったし、過去に手首や手の甲に点滴された経験が既にあったので、「まあ、いっか」と思ってOKしたものの、やはり3日間この位置に点滴針が刺さっていると不便なことが多く、また2日目以降は結構痛みも伴ってきたのでちょっと後悔した。
ちなみにこのB先生は、他の患者さんへの点滴注射も1回で成功したことは殆どないようで、ある日同室の患者さんはこの先生に4回てんで違う場所での点滴を試みられて全て失敗し、結局他の先生にバトンタッチしてもらったということもあった。
A先生の方が点滴の失敗率は高い様子だったけれど、それでも彼は最後まで諦めなかったし、点滴を打つ位置に関する患者さんへの心配りはちゃんと残していた。
B先生が効率を考えてやりやすい場所を探した気持ちはわかるけれど、ちょっと諦めが早過ぎな気がした。もうちょっと頑張って欲しかったなあ。
その他C先生という研修医さんもいたのだけれど、この先生は完璧な安全パイで、私はなるべくこの先生に打ってもらえるように頑張っていた。
他の研修医の先生が点滴針を打つ時は必ずすぐ傍に看護士さんが立って様子を見ているのだけれど、この先生が点滴針を打つ時は、看護士さんは様子を見に来ることはあまりなく、先生が射し終って
「じゃあ、後お願いします。」
とC先生が看護士さんを呼んで初めてやって来るという塩梅だった。
実はC先生は既に薬剤師の資格を持っていて、更に医学部に入って研修医をしているという人物だそうな。研修医なのだけど落ち着き払った雰囲気があり、実際点滴注射も上手だったし、治療方針や患者さんからの質問にも丁寧に答えてくださる方だったので、患者さんウケはとても良かった。
いろんな研修医の方と接する機会があり、皆さん不器用ながらも頑張っている様子がそれなりに微笑ましかった。
他にも腹部エコーの研修に1時間付き合わされて、ちょっとしんどかったけれどもエコーの見方の解説を一緒に聞けて面白かったし、エコーを沢山見ることができておトクだったことがあったり、逆に内診のエコーでは本当にヘタで
「痛いんだよー、研修でもさすがにソコはちょっとは遠慮しなさいよ。そんな角度じゃ子宮じゃなくてウンコが映っちゃうじゃないの!?」
と言いたくなることもあった。いや実際にそんなコトは言わないけれど、研修医の先生が相手だと質問や注文がし易い分、ろくに説明も相談もなく治療方針をサックリ決めて高圧的に迫ってくるお医者さんよりも自分がどう扱われているのかをよく理解できて、前向きに診察される気持ちになれた。
最近見たテレビのドキュメンタリー番組で、産婦人科医は勤務が不規則だったり医療事故の訴訟でリスクを負うことが増えて、成り手が減りつつあるという話をしていた。
命に関わる仕事であるから、生半可な気持ちで選べる職業ではないのだとは思うけれど、自分の人生の多くの時間を仕事に費やすことになるという事実を考えると、やりがいのある、自分にも他人にも誇れるような仕事を持てるということはとても素敵なことだと思う。
今回の入院で関わった研修医の皆様、最終的に産婦人科医になるのかはわからないけれど、プチプチ不満を言いつつも私は皆さんを信頼してました。
なので、いつかまたどこかの病院で出逢って、「いい先生」だという評判が聞けることを心から願っています。
でも次にお世話になるのはもっと先の話、少なくとも今年12月の臨月以降にしておきたいな〜。。。